社会的マイノリティについて書かれた本をメインに取り扱い、「小さな声を大きく届ける」ことを目指す新刊書店「本屋メガホン」を運営する著者による雑記。本屋を運営しながら考えたこと、自身もマイノリティとして生きる中で感じたことなどを思いつくままに書いていきます。
2023年から本屋メガホンという屋号で新刊書店を始めた。店舗があるのは岐阜市柳ヶ瀬商店街内のビルの1階で、「小さな声を大きく届ける」ことをコンセプトに、セクシャルマイノリティをはじめとしたあらゆる社会的マイノリティについて書かれた本をメインに取り扱っている。本を仕入れて売るだけでなく、自分でもZINEを制作販売していて、その中で僕自身ゲイであることをオープンにしているため、お店に来た人や取材に来てくれた人に「勇気がある」とたまに言われる。
こんなに開けた場所で偏った選書の店をやることに対する経営的な視点なのか、自分のセクシャリティをオープンにして店を営むことに対してなのか、それぞれ意図というか、言いたいことのニュアンスは微妙に違っているのだろうが、そう言われる度に僕は、勇気があるからできたことなのか?と自問自答してしまう。確かに、マイノリティ当事者がマイノリティについて書かれた本を、誰でも入ることのできるオープンな場所で売るという行為は勇気が必要なことなのかもしれない。自分以外の誰かが同じことをやっていたら、よくそんなことできるなと思う。
でも自分の実感としては真逆で、勇気も強さも自分にはなかったから本屋を始めるしかなかったし、ZINEをつくるしかなかった、と考えている。本屋メガホンの核になっているのは、運営する僕自身の「強さ」ではなく「弱さ」だと思う。
僕が本屋を始めるきっかけになったのは、『ぼくをくるむ人生から、にげないでみた1年の記録』(少年アヤ/双葉社)と出会ったことだった。その本を読むまでは、ゲイとしての自分自身を嘘で覆い隠すことも、パートナーの存在をいないものとして振る舞うことも当たり前のことだった。そうしないと生きていけないと思っていたし、違和感を抱えながらこれからも生きていくのだろうなと漠然と感じていた。怒りというよりは無力感というか、諦めの感情が強かった。どうにもできないだろうし、どうにもならないだろうなと思っていた自分自身を問い直すきっかけになったのが、『ぼくをくるむ~』だった。
僕は昔から自分に関係ないことでも関係あることでも、なんでも過剰に共感し過ぎてしまう性格で、犬の感動物語的な番組をテレビで見ると絶対に泣いていたし、自分が直接困っていなくても誰かが困っている状況に遭遇すると、いつも勝手に怒って不機嫌になっていた。だから、ゲイが著者の本を読むことは自分にとって当事者性があまりにも強すぎて、しんどくなってしまうことが目に見えていたので、進んで手に取ることはなかったが、何かのきっかけでたまたま『僕をくるむ~』を読んでしまい、そこに書かれていた内容がその当時自分がモヤモヤしていたこととあまりにもリンクしていて衝撃を受けた。
ゲイとしてこう生きていくべきとか、こうすると生きやすいとか、こう生きることで考え方が変わったとか、そういうハウツー本ではなくて、弱くて脆くてぐちゃぐちゃになりながら、不格好に転がりながら、それでもゲイとして生き続ける著者の人生を何の脚色もなくそのまま書き記してあって、僕はこういう本が読みたかったのだと気がついた。僕が潜在的に求めていたのは、強くて勇敢なロールモデルではなくて、打たれ弱くて泣き虫な隣人だったことを、この本を読んで思い知った。
僕が無力感として片付けていた気持ちは、そう思う方が楽だから自分にそう思い込ませていただけであって、本当はめちゃくちゃ怒っていたし、どうにかしたいと思っていた。他人の基準や普通に合わせて振る舞うことも、ゲイとしての自分を嘘をついて覆い隠すことも、とっくに限界が来ていて、それに気付きたくない一心で見て見ぬ振りをし続けていた自分の本性を暴かれたようで、目が覚めた。これを読んでしまった後の自分は、もう嘘をつけないし、自分の大切なパートナーをいないものとして扱うことはできないなと思った。そう思ったのは、自分が強い意志を持っているからではなくて、弱い自分を肯定できる強さを得たからだった。
自分のようなマイノリティがこういう本に出会える場所は一か所でも多くあった方がいいと思って本屋を始め、なぜそう思ったか、書き記しておこうと思ってZINEをつくった。だから、本屋メガホンは勇気を持って「やる」ということを選択した結果できたものではなく、「やらない」(嘘をつかない、いないことにしない)ということを主体的に選び取った結果、成立しているものだと思っている。
強くて勇敢なヒーローも必要だが、弱くて泣き虫な当事者がその弱さを引き受けたまま生き延びられる環境も同様に必要だ。というか、そういう場所があまりにも少なすぎる。本屋メガホンがその裾野を広げ、ハードルを下げる役割を少しでも担えるといいな、と思っている。
和田拓海(わだ・たくみ)
1997年兵庫県生まれ。2023年より岐阜市にて新刊書店「本屋メガホン」を主宰。
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