社会的マイノリティについて書かれた本をメインに取り扱い、「小さな声を大きく届ける」ことを目指す新刊書店「本屋メガホン」を運営する著者による雑記。本屋を運営しながら考えたこと、自身もマイノリティとして生きる中で感じたことなどを思いつくままに書いていきます。
Twitterをやめようと思う。これまで何回も同じことを思ってきたが、やめてもいいかなと思えるきっかけがあったので、Twitterをやめようと思う。
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ある日の営業日、新聞に掲載された本屋メガホンの記事を読んで、県外にある学校の先生が訪ねてきてくれた。セクシャルマイノリティの生徒がいて、学校として何かできることはないか相談しに来てくれて、参考になりそうな本を一緒に探したり、LGBTQ+の子供・若者の居場所づくりに取り組む団体を紹介したりした。僕の提案や対応が的を得たものだったかどうかは正直不安だし不十分ではあると思うが、相談できる場所があることがまずは大事だよな、と自分で自分を言い聞かせることにした。わからないことを相談したり共有できたりする場所になりたいということを新聞の取材時にも話していたので、まさに実現してとても嬉しかった。
SNSを見て来たという人が今までも圧倒的に多かったので、新聞に載ったところで…と正直思っていなくもなかったが、今まで通りSNSだけで発信を続けていれば先生が相談しに来てくれることはなかっただろうし、どういう媒体を使って情報を発信する(べき)か、それから考えるようになった。実際その先生も、最近Twitterを始めたけど使い方がよくわからなくて…と呟いていて、お店のことはSNSメインで発信をするものだと思っていたが、SNSに発信を絞ることでアクセスしにくくなっていた層も確かにいることを想像できていなかった。
SNSの使い方がよくわからない層もいれば、積極的にSNSを使いたくない層も多いと思う。特にTwitterにおけるヘイトや差別の嵐は過酷さを増してきているし、SNSを使いたくても使えない人、やめたいと思いながらもそのきっかけを失い、精神をすり減らしながらタイムラインを追っている人も多いはずだ。イーロン・マスクがTwitterを買収したことによるメリットを挙げるとすると、SNSは完全にインディペンデントで安定したプラットフォームにはなり得ないということを思い知れた点だと思う。所詮会社が運営していることであって、その方針転換一つで、誰かと手を繋ぐための道具にも、誰かを殺すための凶器にもなりうる。
ネット上の誹謗中傷を一因とした有名人の自死のニュースに触れるたび、他人の容姿や属性、その人が勝ち取った生き方と言葉たちのすぐ隣に、それを否定する言葉を簡単に隣り合わせにできてしまうツールの有害性を痛感してきたはずだが、いつの間にかそれも忘れ、Twitterやめて~と思いながらタイムラインを遡る手は止めることができずにいる。「社会的マイノリティの小さな声を大きく届ける」というコンセプトを掲げ、セーファースペースを目指している本屋メガホンが、マイノリティにとって安全とはいえないメディアを用いて発信を続けることの矛盾というか欺瞞に僕自身耐えられなくなってきた面もある。スマホにはりつけられた手を止め、周りを見渡すことができるようになったのは、先生が訪ねてきてくれたことがきっかけだった。
ついフォロワーやいいねの多さに価値を見出してしまって、それが多ければ多いほどお店の存在が知られている/共感を得ている、という思考に陥りがちだが、重要なのは量ではなく、そこでどのようなコミュニケーションがなされているかだと思う。僕が本屋メガホンのコンセプトに沿った書籍をピックアップして販売し、それをまたお客さんが選んで買うという行為はすでに立派なコミュニケーションとして成立している。悪意と差別と暴力を容認し助長するツールを無理に使い続ける必要はないし、そのツールを使って発信を続けることが何らかの政治的意図を持ってしまうフェーズにまで制度が破綻しきってしまっているように感じる。
本連載のタイトルであり、本屋メガホンが掲げるセーファースペースポリシーの一項目でもある「弱いままでいられる場所」を目指すためには、「何をするか」ということと同じくらい、「何をしないか」ということも重要なアクションだと思う。
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以上の考えから、2023年10月末をもってTwitterでの発信をやめることにした。批判しながら使うという選択肢もあるとは思うが、プラットフォーム側からすればそれは数としては同じで、我々が今やるべきなのは、プラットフォーム側の体制や方針が改善されることを待つことではなく、よりセーファーでオルタナティブな方法を試行錯誤しながら作り出していくことではないだろうか。
zineを自分の手で一から作ってみて、それを各地の独立系書店で販売してもらってみて、SNS以外の方法でつながりを持つことや、自分の手でネットワークをつくっていくことのしなやかさと強さを十分に体感した。自分がzineに書いたこと/書きたかったことは140文字には到底おさまりきらないし、わかりやすくしない/表面的な情報だけでわかった気にならないということは、常に意識しておきたいことの一つだ。
そこで、Twitterをやめる代わりにメルマガを始めてみようと思う。一度フォローすればどんな情報でも閲覧できて、誰でもその情報にコメントや何らかの意思表示を送ることができてしまう(そこに悪意の有無というフィルタリングはない)双方向性の高いSNSではなく、一方的にメールを送ってそれを受け取るという双方向性の薄さ、その単純さに一度立ち返ってみたい。SNSを用いて無制限に世界や社会に開いていく方向ではなく、少しずつ閉じながら開いていくような、そんなコミュニケーションのあり方を模索していきたい。
※2023年10月以降のSNSの運用について
・Twitterアカウント自体は残しますが、営業や入荷の情報はInstagramとメルマガをメインに発信していく予定です。
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和田拓海(わだ・たくみ)
1997年兵庫県生まれ。2023年より岐阜市にて新刊書店「本屋メガホン」を主宰。
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