新刊チェック(24/02/18-24)&お知らせ
先日ウェブ記事で紹介されたためか、こちらのニュースレターの登録者数も急に(といっても比較対象があれですが)増えました。ありがたいと同時に気を引き締めなくてはという思いがあらためて生じております。そして、例の記事を読んで登録していただいた方に特にお伝えしたいことは、私は権威ではないし、常に絶対的に正しいことをするわけでもなく、つまり「本屋lighthouseが言っているのならそれはすべて正しいことなのだ」というような理解をしてほしくはない、ということです。さらに言うならば、このような記事で好意的に紹介されると、ある種の絶賛状態になってしまうことが多いのですが、そのように私=本屋lighthouseを「すごい存在」として認識してしまうと、それは翻って「すごくない自分はなにもしなくてもいい」というような感覚になってしまうこともありますので、そのあたりは気をつけてほしいところです。私がほしいのは絶賛でも賞賛でも名誉でもなく、ともに抵抗をしてくれる者の存在です。別世界の住人にしない/ならないでください。
そしてこのようなバズり的な反響があるとわけのわからない依頼もやってきたりするのですが、注意喚起も兼ねて報告しておきます。
具体名は出しませんが、
・ヘイト本に関する議論、ディベートをしたい
・場所はX(Twitter)のスペースでやりたい
・自社で出版予定の本の宣伝にも繋げたい
・その本はヘイト本として(関口に)判断される可能性もある
というような内容の依頼が来ており、断りました(正確には無視していますし、Twitterもフォローされましたがブロックしました)。
該当アカウントの投稿をチェックすると、ヘイト言説を撒き散らしている政治家の支持者層へ本のアピールをしていたり、性的マイノリティの存在自体を否定するような投稿をしており、そのような相手と議論をすべきではない、と判断しました。
①Twitterのスペース機能は企画側の匙加減で環境設定ができてしまうため、場の安全性が担保されない
②マイノリティは議論の、そして宣伝の「材料」ではない
③マイノリティをなんらかの「材料」としか思っていない者にとっては議論の中身や勝ち負けなどはどうでもよく、マイノリティをおもちゃにするきっかけを与える結果にしかならない
今後、当店同様に反差別・反ヘイトをテーマにして取材を受ける本屋さんなどがあるかと思いますが、このような「依頼」が来たときは相手にしないようにしてください。議論に乗った時点で負けです。攻撃するための材料ときっかけがほしいだけですし、どんなことですら材料ときっかけとして活用されてしまうので、とにかく無視しましょう。こういった者らに議論で勝ったとしても、マイノリティの置かれている状況は好転しません。
前置きが長くなりましたが、本編に入ります。
新刊チェック(24/02/18-24に刊行予定の本) *入荷は少し遅れます
英治出版
自分の「声」で書く技術
9784862763310
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784862763310
“伝えたい言葉が見つかるか不安、欠点ばかりが目につく、評価が怖くて手が止まる......「書けない」感覚に徹底的に寄り添う! 読み継がれる不朽の実践書”。副題にある「自己検閲をはずし」という部分が「地上波ではできない」的なものになってしまうと困るわけですが、そうではない自己検閲による「書けない」を打破するための本として、本屋lighthouseのお客さんは活用してくれるんじゃないかと思います。
慶應義塾大学出版会
サンリオ出版大全
9784766429404
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784766429404
“大量消費時代に先駆けた1960年代から1980年代までのサンリオ出版を、「女性文化」や出版史のなかに位置づける初めての試み”。皆さんにとってのサンリオ出版(の本)はなんでしょうか。私はアンソニー・バージェスの『1985年』です。ディストピア文学を研究しているときに必要に駆られてどうにか古本でゲットしましたが、あんまりおもしろくなかった記憶が残っています。いま読んだら違うのだろうか。
法政大学出版局
〈砂漠〉の中で生きるために
9784588130397
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784588130397
“「現れの空間」としての「政治的生」を可能にする、私たちの日常世界の根本構造を現象学的にとらえ、「共通感覚」と「世界への愛」こそが、異質な人々の自由な語りと聴取による言論空間をひらくことを論証する。これまでのアーレント解釈を一歩進める気鋭の論考”。『違国日記』でも砂漠はキーワードになっていて、非常に気になる1冊です。
PHP研究所
本屋のミライとカタチ
9784569856353
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784569856353
“新たな形の本屋を創出する人の気概、本の魅力を多角的に伝えている人の活動、他業種の復活事例などから、書店の将来の可能性を探る”。詳細が載っていないのであれですが、とにかく北田さん元気でなにより、という感じです(個人的感情)。なお、本屋lighthouseのスタンスとしては「どれだけ本屋と出版業界が魅力的になろうと社会が壊れてたらどうにもならんでしょう」なので、本(屋)のことだけ考えてればいい、みたいな感じになっちゃっている方たちにはもう少し「現実を見てほしい」と思います。余裕がなければ本を買うことも読むこともできない。そこをスタートにしないとどうにもならんので。
草思社
生と死を分ける翻訳
9784794226976
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794226976
“いまでは機械翻訳が発達し翻訳が身近で手軽になりましたが、歴史を振り返って見ると、聖書の布教、第二次世界大戦、冷戦、そして『千夜一夜物語』やボルヘスなどの作品翻訳…と、翻訳・通訳者は数多くの命にかかわるような歴史の重大局面にかかわってきました”。昨今の時勢的に機械翻訳との対比が盛り込まれるのは納得するけど、別にそこへの言及がなくともいいというか、機械翻訳誕生以前から翻訳の持つ重要性と危険性は存在していたので、いずれにせよ真剣に考えなくてはいけないことだと思います。
集英社
自分で名付ける
9784087446210
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784087446210
文庫。松田青子。同日に山崎ナオコーラ『肉体のジェンダーを笑うな』も文庫化されるのですが、お店が開店した時期に定番本としてよく売れていた単行本が文庫化する時期になったのが、非常に感慨深い……。
新潮社
涙にも国籍はあるのでしょうか
9784103555612
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784103555612
“震災から 12 年、東北を取材し続けてきたルポライターが初めて知った事実。それは「東日本大震災での外国人の犠牲者数を誰も把握していない」ということ”。現政権なら当然だよね、という事実ですが、このようにあらためて本にして世に問う=事実を公表することがまずは第一歩なので。
KADOKAWA
ネトゲ戦記
9784046833945
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784046833945
あ、本当に出版されるんだこれ……な1冊。KADOKAWAの評判がどんどん落ちていくここ数ヶ月ですが、本屋的には通常運行で、急におかしくなったわけではないです。KADOKAWAは「とにかくSNSでバズってるインフルエンサー(なりかけ含む)に自伝的なエッセイ書かせる」をよくやっているので、これもその一環だと思います(ほぼ毎日この手の本が出ています)。フォロワー数がこれくらいだからその何割は売れるだろう、という数字の予測が立てやすく、かつ本の宣伝も著者が勝手にやってくれるので、とにかく楽なんでしょうね。志のない出版はするな、とまでは言わないけども(そういう出版ができる遊びは必要)、そういうことばかりやっていると社会がおかしくなるのも必然で、そうなると結果として自分の首を絞めることになるのだということに、そろそろ気がついてほしいところです。
早川書房
三体
9784150124342
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150124342
文庫。マジか……これは『百年の孤独』と同様に単行本で長期間売り抜くものだと思っていましたが……安価な文庫じゃないと買ってもらえない感覚はここ数年で強まる一方なので納得はするけども……とはいえ1100円+税ですからね、決して安価ではないわけで……とにかく社会情勢をどうにかしないとならんということがこういうことからも突きつけられます。第2巻以降は来年の文庫化でしょうか。読んでほしい1冊ではあるので、文庫化を機に読者が増えることを願っております……。
河出書房新社
ライフライン
9784309231464
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309231464/
“インターネット、電気、水道……この世界を動かす3つのシステムの歴史としくみについて、米国の人気漫画家が平易にひもとき、未来を考える旅へと読者を誘う”。今日昨日あたりのトピックだと郵便の配達日数がまた遅くなる系のがありましたね(速くなくてはならない的なあり方には疑問もあるのでそこは別問題とするけども)民営化していいことなどないのがインフラなので、ここであらためてインフラの歴史を学んでおきたいところですね。災害とも関連する内容ですし。
Gakken
選挙、誰に入れる?
9784052057816
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784052057816
“政治が暮らしと密接に結びついているのはわかっていても、なんだか難しく感じる人も少なくないでしょう。この本は、税金、社会保障、給与、エネルギー、多様性、選挙のあり方など、ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておいてほしい様々なテーマを、豊富なデータと図解でわかりやすく解説しています”。大人が選挙に行かないと子どもも行くようにはならないので、この本はジャンルとしては児童書に分類されていますが、まずは大人が読むべきものでしょう。しかしどうすれば「他人事」だと思わなくなるのだろうか……それとも他人事ではないことは理解していて、そのうえで切り離して生きているのか……。とりあえずこの本を公園とかに置いていく活動をするか……。
書肆侃侃房
埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち
9784863856042
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784863856042
“ロシアの古書店で著者がたまたま見つけた詩集を手がかりにして、100年前の忘れられた15人の女性詩人たちのことばを一つずつ拾い上げる”。商業出版がクソなことばかりやっているからこそ、同人誌的なものであってもとにかく書き残して世に放っていくことの意味を感じますよね。
青土社
ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学
9784791776337
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784791776337
昨年末あたりから重版未定になっていたものの新装版ですね。2009年初版刊行だったので、増補もされていると思います。ウェブストアでも登録はしてあるので、購入希望の方は再入荷リクエストをしておいてもらえると助かります。2/12の映画上映会には間に合わず残念ですが、思ったより速い復刊で感謝。どんな形であれ、未来への応答責任を果たしていきましょう。
ビー・エヌ・エヌ
多元世界に向けたデザイン
9784802512527
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784802512527
“デザインと人類学を中心に、開発学、哲学、生態学、ラテンアメリカ研究、フェミニズム理論、仏教、音楽など様々な分野を横断しながら、西洋近代資本主義的な単一の未来ではなく、場所に根差した複数の未来をつくるための手立てを模索する”。翻訳同様にデザインの持つ力は大きいですよね。難しそうだけど読んでおきたい……。
今週のお知らせコーナー
①定期読書会関連のお知らせ
・2/18(日)14時〜16時 高橋くん読書会
→今回の課題本、もといテーマは「芥川賞関連」とのことです。候補作でもいいらしいので、そうすると500作以上が対象……?今回は通常回なので、特に申し込みなどは不要です。自由参加。ツイキャスでも流します。
・3/24(日)14時〜16時 『物語とトラウマ』ゆる読書会
→今回の課題本は多和田葉子の『雪の練習生』です。詳細はこちらから。
②おでんの会、ついに今週末2/3(土)です。ゲストは高島鈴さん。みなさま、この日ばかりは布団の中から出てきておでん鍋のまわりで蜂起をお願いします。詳細はこちら→https://books-lighthouse.com/portfolio/oden240203/
③映画『ガザ・サーフ・クラブ』の上映会を2/12(月・祝)に開催します。12時〜15時/16時〜19時の2回で、それぞれ上映後1時間ほど店内にて自由に過ごす時間を設けます。価格は2000円で、そのうち500円はパレスチナ関連と能登地震関連の寄付へ。詳細&申し込みはこちらから→https://books-lighthouse.com/portfolio/gazasurf240212/
④2024年2月23日(金・祝)の18時〜20時、ジョン・ファンテ『塵に訊け』刊行記念イベントを開催します。訳者・栗原俊秀さんをお招きして、「イタリア系アメリカ移民二世」というファンテの出自をフックにしてお話をしてもらいます。聞き手は私。がんばります。詳細&申し込みはこちらから→https://books-lighthouse.com/portfolio/askthedust-240223/
⑤〈新規イベント〉2024年3月2日(土)18:00〜20:30 本屋deライブハウス:ボギー&カシミールナポレオン(魔界)を開催します。この日は本屋ではありませんのでお気をつけください(不敵な笑み)。たぶん16時くらいまで通常営業で、そのあとはライブハウス仕様になります。詳細&申込はこちらから→https://books-lighthouse.com/portfolio/bogggeykashnapo240302/
⑥ウェブストアを移転しました。新ストアはこちらです。旧ストアは完全に停止しようと思っていたのですが、無料プランに切り替えても7月くらいまで有料のままなので、Tシャツ売場にしました(新ストアにはTシャツ作成機能がないので)。いまのところオシャレさんもどきみたいなものしかないので、今後はもっとへんてこなものを増やしていきたい所存。
⑦ブルースカイのアカウントを開設していました。なお、10月いっぱいでTwitterの運用はほぼ終了しました。緊急連絡やDM利用などは続けます。あと、Twitterでしか告知ができない/していないアカウントに関わる告知なども、当面の間は続けます。通常のお知らせ系はほかSNSにて同時並行的におこないますので、ご都合よろしいものでチェックしてください。各種リンクはこちらにまとまっていますので、よーちぇけらー٩( ᐛ )و
⑧2024年5月の文フリ東京を目標に、本屋運営に関するあれこれを書き連ねたZINEを作ろうと考えています。本屋の始め方とか続け方とか、そういう参考になるものは多ければ多いほどいいので、本屋lighthouse的本屋ノウハウZINE的なサムシングをば……。どちらかといえば実用書的な、テクニカルな話をしたいと思います。なので『ユートピアとしての本屋』とはまた違った角度から本屋を考える1冊になるので、あわせて読んだりすると私がよろこびます。ということで、どういうことが聞きたいか/知りたいか教えてください。目次が決まらなくて書き出せないのです。ちんちくりん。この記事へのコメントやbooks.lighthouse@gmail.comなどへ遠慮なくどうぞ。よろしくお願いします。