本屋lighthouseでは99.9%関係ない話題なのですが、いま一般的な本屋界隈では『ジャンプGIGA』についての話で持ちきりです。よくない意味で。
『呪術廻戦』関連の付録がもりもりついていて、告知開始とともに予約が殺到。しかしこういった商品は「発注数どおりに入荷するかわからない」ため、本屋は予約を断ったりします。当然意気揚々とお店にやってきたお客さんは困惑、もしくは激怒、などなどし本屋への信頼を失っていくわけですが、この状態は今回に限ったことではなく、SNSによる情報発信がメインになって以降ずっと続いているものです。
本の入荷に関する細かい仕組みの説明は省きますが、端的に言うと「出版社が書店への告知よりも先にSNSで一般公開しちゃう」ことが根本原因(のひとつ)です。これは数年前にも個人的に批判的言及をしていて、私史上もっともバズった投稿と言ってもいいくらいの反響があったのですが、出版社のあり方は変わっていません。なお、前回も今回も集英社です(が、こういう状況になるのは集英社に限ったことではないし、集英社に対してのみ批判をしたわけではない)。
おそらく「本屋からの仕組み改善の要求などどうでもいい」と出版社は判断しているのでしょう。販路はAmazonなどのネット書店もあるし、直販もある。最悪、本屋でこれが売れなくてもお客さんはどこかで入手するのだから。ていうか、ウチの本を仕入れないなんてことできやしないのだから、反旗を翻すなんてことはないでしょ。と、出版社の社員が思っているかどうかはわかりませんが、構造としてそうなってしまっているので、個々人がそんなことを考えていなくとも、その構造に抵抗する動きを見せなければ実質的にそうなってしまうのです。
本来、メーカーも問屋も小売も対等な立場で商売をやっているはずです。しかし出版業界においては、どうもそのパワーバランスが(他業界に比べて圧倒的に)偏っているように思えます。小売がメーカーに楯突くはずなどない。もう一度言いますが、出版社で働くあなた個人がそうは思っていなくても、なにか行動を起こさなければこの理不尽な状況は変わりません。本屋が大事だと言うのなら、仕組みを変えてください。残念ながら、現状では「本屋という下請けのことなんかどうでもいい。代わりなどいくらでもいる」と言われているのと変わりません(念のため言い添えておきますが、本屋が下請けではないのと同様に、下請けだからといってテキトーに扱ってもいいというわけではありません)。
また、出版社が下請けだとみなして粗雑に扱っている本屋のその先には、読者がいます。つまりあなたは読者もまた粗雑に扱っているということです。粗雑に扱っているのは本屋だけだと思っているのかもしれませんが、わざわざ本屋に来たのに予約ができないお客さんは交通費や時間を無駄にしているわけです(電話なら通信費を)。じゃあAmazonで買えばいいじゃないか?Amazon配達員の労働環境が書店員同様に劣悪なのは理解していますか?それでもその負荷を増やすことを厭わないと?Amazon配達員だけではなく、自分たちのビジネスがどのような存在によって維持可能になっているのか、真面目に向き合って考えてもらいたいものです。
出版業界も日本社会の一部ですから、日本社会において指摘されているさまざまなダメな点は、出版業界においても存在しています。「立場の弱い存在の声を聞かず」「自分たちさえよければそれでいい」というあり方は、現状の日本社会ひいては日本の政治がとり続けている態度でもあります(そのことについて無自覚であることも同様に)(いや、一部の政治家に関してはもはや自覚的にやっている節すらありますが)。「代わりなどいくらでもいる(から使い捨ててもいい)」などと粗雑に扱っているその存在は、あなたが居座っている場所の土台を築いている者たちです。その者らがいなくなれば、当然あなたがいる高台の豪邸も崩壊してしまいます。
こういった問題はこの社会のいたるところに存在しています。もう一度言いますが、それは個々人が善であるかどうかに関係なく、構造がそうなってしまっている以上そうならざるを得ないものです。ゆえに、意識的に抵抗のための行動を起こさなければ、構造の暴力に飲み込まれるしかありません。つまり、これはだれかひとり(1社)を悪者にしてその者を罰しさえすれば解決する、といったものではありません。私たち個々が、自分も常に加害側にまわってしまう(もうすでにいる)可能性を意識しつつ、自分ごととして解決していかなければならないものです。『ジャンプGIGA』に関わる多くの人たちが、これを機会に社会との関わり方を考えるようになるといいな、と思います。
新刊チェック(24/08/11-17に刊行予定の本) *入荷は少し遅れます(お盆明けになるものもあります)
作品社
喉に棲むあるひとりの幽霊
9784867930403
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784867930403
エマ・ドナヒュー作品の翻訳でお馴染みの吉田育未による翻訳でお届けされる“18世紀に実在した詩人と著者自身の人生が入りまじる、新しいアイルランド文学”。春あたりに作品社から届いた近刊案内のチラシで見つけて、なんかこれ吉田さん好きそうだな……とか思って詳細見たら本人が翻訳してて笑いました。“他者の声を解放することで自らの声を発見していく過程を描き、《ニューヨーク・タイムズ》ほか各紙で話題となった、日記、哀歌、翻訳、詩人たちの人生が混交する、異色の散文作品(オートフィクション)”。ほら、読みたくなってきた!予約受付中!
筑摩書房
戦場のカント
9784480018007
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480018007
“加害の自覚とは何か――。撫順戦犯管理所やアウシュヴィッツ収容所が人々に刻んだ体験は、人が人を赦すことの意味を峻烈に問う”。悪意を伴った=故意の加害は本質的にはSOSの発露だと思っていて、そういう意味では、加害の自覚=自分がケアを受ける資格があることの自覚=「ケアされるのは弱いやつだ」という価値観からの脱却、ということなのかな……などと考えていたりします。SNSで執拗にヘイトスピーチをかましている者をいくら言論でぶん殴っても効果がないのは、その者に必要なのはケアだから。そういう文脈の本ではなさそうですが、気になる1冊です。
三省堂
ことばのつながり探し辞典
9784385139760
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784385139760
“こなれた感じの言い回しや、だれにでも伝わる自然な表現を探すのは意外と難しい…そんなとき、定番の「ことばとことばのつながり」=コロケーションで伝えれば、ぐっと伝わりやすくなる。適切な日本語のこなれた表現を多数収録”。出版社的にはビジネスやSNSでの活用を意識しているようですが、物書き一般にとって有用な1冊なのでは……?文庫版208pで800円+税。これは本棚に1冊入れておきたい、という物書きは多いのでは……?
お盆なので新刊少なめです。なお、KADOKAWAの入荷は当分ダメそうです。
(本屋仲間への質問!:もしかして八木経由だと入荷しますか?)
今週のお知らせコーナー
①定期読書会関連のお知らせ
・8/18(日)14時〜16時 高橋くん読書会
→今回の課題本、もといテーマは「読書感想文」。毎夏恒例になってまいりました。なお、昨年は提出者0名でしたが無問題でした。そういう読書会。特に申し込みは不要です。自由参加。ツイキャスでも流します。zoom参加希望者はbooks.lighthouse@gmail.comまで連絡ください。
・8/23(日)14時〜16時 『物語とトラウマ』ゆる読書会
→今回の課題本は多和田葉子の『太陽諸島』です。詳細はこちらから。
②〈取引代行始めました〉7月20日頃に春眠舎より刊行の『世界を配給する人びと 遠いところの声を聴く』(アーヤ藍 編著)を皮切りに、春眠舎の本の流通を本屋lighthouseにて担当します。ここでの流通とは「書店向け」の意味合いなので、読者の皆さんはふつうに本屋で買っていただけます。取り扱い希望の書店さんはこちらの取引条件をご確認のうえ、当店もしくは春眠舎までご連絡ください。ブックセラーでも注文可能です。
③〈明後日です!〉7月26日(金)19:30〜21:10にポルベニールブックストアで開催されるイベント『中島京子×金井真紀 「小説家が描く女性たち×テヘランで出会った女性たち」』を本屋lighthouse店内でも視聴できるようにします。本屋イベントパブリックビューイングみたいな感じですね。参加費は1600円(支払いは当日店内にて)。申し込みはこちらから。大船までは行けないぜ!とか、ひとりお部屋で見るのはさみしいね……な方は幕張までどうぞ。
④ウェブストアを移転しました。新ストアはこちらです。旧ストアは完全に停止しようと思っていたのですが、無料プランに切り替えても7月くらいまで有料のままなので、Tシャツ売場にしました(新ストアにはTシャツ作成機能がないので)が、こちらもTシャツ作成機能が終了したのでSUZURIに移行しました。
⑤ブルースカイのアカウントを開設していました。なお、Twitterの運用はほぼ終了しました。緊急連絡やDM利用などは続けます。あと、Twitterでしか告知ができない/していないアカウントに関わる告知なども、当面の間は続けます。通常のお知らせ系はほかSNSにて同時並行的におこないますので、ご都合よろしいものでチェックしてください。各種リンクはこちらにまとまっていますので、よーちぇけらー٩( ᐛ )و
⑥2024年5月より営業時間を変更しました。土日祝日はこれまでどおり12時〜19時での営業ですが、平日の営業時間を14時〜21時に変更。いままでより2時間後ろにずらします。会社帰りにも寄りやすくなると思うので、ぜひ帰り道に……。
⑦mastodonサーバーを壊してしまったので新設しました。以前のlighthouseサーバーでアカウントを運用していた方はご連絡くださいませ。招待リンクをお送りします……。少人数用サーバーのため新規受付は一時停止中、ご希望の方はしばしお待ちを。