新刊チェック(24/03/24-30)&お知らせ
昨日あたりから話題になっている、政治による書店支援プロジェクトやらなんやらですが、支援の中身云々以前に「誰が主導しているか」を把握することがまず大事です。
上記記事内に名前のある齋藤経済産業大臣ですが、「がんばれ本屋さん/上 「知は街にあり」 角川春樹×齋藤健・書店議連幹事長」という別記事内にもあるように、自民党が主体となっている「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」に所属している議員です。
つまりこの支援策、自民党が主導しているわけです。そもそも「街の本屋さんを元気に」したいのであればインボイス制度はすぐに廃止、消費税も(出版物に限ることなく)減税して、減税ができないのであれば軍事費だとかマイナンバーだとかに充てている分を社会保障分野に充てる、そもそもベーシックインカムを導入……etc.をすれば万事解決とまでは行かずともそちらの方向に向かうわけでして、それをやらずにキャッシュレス決済の支援だとかカフェ・文房具併設店が云々だとかの話にするのは、それがもはや業界的に周回遅れの議論であることに加えて、なるほど目的は「中抜き」ですね、というのがモロバレの施策です。利権・中抜き目的なのはここ数年ではいつもの光景ですが。
街の本屋から元気を失わせているのは政治の失態であり、そもそも本屋に限らずあらゆる業種の元気がなくなっているわけで、本屋だけを支援したところでパイの奪い合いにしかならず、そのパイが失政によって縮小し続けている以上、痩せ細っていく土壌で殴り合いをしているだけです。
そもそも私は「日本の文化」とやらを守るために本屋をやっているわけではないし、むしろ自民党の言う「日本(人)」の中には入っていない者らもまなざしながら本屋をやっている身からすると、応援なんかされてたまるかという気持ちにしかならないのですが。このニュースに期待を抱いてしまっている業界関係者の皆様方には、「街の本屋さんを元気にして」→「日本の文化を守る」という接続に危うさを感じてほしいところです。
無自覚なナショナリズムが蔓延した先にあるのは戦争です(イスラエルもロシアも他人事ではない)。今日はウィシュマさんの命日でもありますし、「日本の文化」とやらを殊更に称揚する方々がなに/誰を抹殺してきたかについて、正面から向き合ってみてはいかがでしょうか。現在進行形でも、こういう悪意の塊のような法案を通そうとしています。本が好きな人には悪い人はいないんでしょう?
新刊チェック(24/03/24-30に刊行予定の本) *入荷は少し遅れます
NHK出版
声と文字の人類学
9784140912843
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784140912843
“「文字による伝達が生まれると文明が生まれる」と見る人類史が見落としてきた事例は多い。本書は、古代ギリシャから中世英国、近代日本、現代バリまで、「声より先に文字がある」「文字記録が信頼されない」例を集め、字を書くことと「口伝え」との境界面を探ることを通じて文明の常識を問いなおす”。去年『ハンチバック』の市川さんが出版業界に投げかけた読書文化のマチズモと接続するテーマですね。紙の本至上主義、やめましょうね。好きなのは自由だけど、紙以外の媒体を否定する必要はないのだから。
松柏社
ゴシックと身体──想像力と解放の英文学
9784775402986
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784775402986
“家父長制に抗う女たちがもちいたものこそ、“ゴシック”の戦術だったのではないか”。入荷が待ち遠しい1冊。やっぱり今年は文学研究をあらためてやり直したい……。
柏書房
シミズくんとヤマウチくん
9784760155590
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784760155590
先日からお知らせしているように、清水えす子さんと山内尚さんの新刊です。『ノンバイナリースタイルブック』と同時刊行。セット販売でも予約受付中。5/11(土)にはお茶会&トークイベントも開催。
河出書房新社
世界ぐるぐる怪異紀行
9784309617626
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309617626/
“「わからない」ものはどうしてこわいのか。文化人類学者たちが世界各国の怪異をどのように受け取り、紐解くのか。自分の常識がみるみるうちに変化していく、恐ろしくも楽しい世界へご案内”。こういう本を売っていても「日本の文化を守る」ことになるんでしょうかね? この文脈から見ていると、副題の「どうして”わからないもの”はこわいの?」が皮肉に思えてきますね。
吉川弘文館
文書館のしごと
9784642084482
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784642084482
“全国各地の文書館で地域の歴史資料を守るアーキビスト(公文書館専門職員)。長年、地方文書館に勤務する著者が地域史料の保存・公開や収蔵資料を用いた高校生への授業、行政文書の劣化状態の調査、教会資料の残し方などを平易に解説。現場の視点から、今後の文書館のあるべき姿や展望を提示する”。私は図書館すらまともに使いこなせていない……。
フィルムアート社
アートワーカーズ 制作と労働をめぐる芸術家たちの社会実践
9784845923083
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784845923083
“ベトナム反戦運動を筆頭に、フェミニズム運動、ブラックパワー運動、ゲイ解放運動、大規模なストライキなど、政治的・社会的な運動が巻き起こった騒乱の1960–70年代アメリカ。美術界では、「アートワーカー」という集団的アイデンティティが生まれつつあった──”。本屋としてもなにかヒントがあるような気がする1冊です。
新潮社
出会いはいつも八月
9784105090210
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784105090210
ガブリエル・ガルシア=マルケスが“最期まで情熱を注いだ未完の傑作”。ということで『百年の孤独』文庫化への布石が置かれ始めたようです……(真の始まりは友田とん『『百年の孤独』を代わりに読む』という説があります)。
創元社
能力で人を分けなくなる日
9784422360164
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784422360164
“本書は、著者の三女で重度の知的障害者である星子さんとの暮らしや、津久井やまゆり園事件の犯人「植松青年」との手紙のやりとり、また1977年から通い続けた水俣の地と水俣病などについて、10代の3人の若者を相手に語った記録である。能力主義と優生思想、人とのかかわり、個・自立・責任、差別、脳死、人の生死といのち……などをめぐって話しあい、いのちに価値づけはできるのか、「共に生きる」とはどういうことかを考える”。つながる話としては、差別をするのは「低脳」「知性がない」からである(我々はそうではないから反差別なのだ)、というような考え方は明白に差別ですので気をつけましょう、ということを付け加えておきたいですね。
大月書店
10代に届けたい5つの“授業”
9784272331130
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784272331130
ジェンダー、貧困、不登校、優生思想、動物との関係性、の5つの観点からの、“学校では、学ぶ機会がほとんどないけれど、本当は身近で大切な問題がある。よそごとが「自分ごと」になる5つの“授業””。本屋lighthouseの本棚的には吉野靫さんや貴戸理恵さんあたりの名前があり、親和性がある1冊です。
河出書房新社
スピン/spin 第7号
4910078220445
書誌情報が見つけられませんでしたが、3/28刊行のようです。全16号予定のはずだから、ようやく折り返し付近……。当店には4月入ってからの入荷になると思います。
勁草書房
ケアリング・デモクラシー
9784326303366
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784326303366
“これまでの民主主義論が前提する自立/自律したリベラルな個人像を批判し、誰もが「他者に依存せざるをえない存在」という人間観の下での社会構想を訴えるとともに、「ケア」を周縁に封じ込めてきたその政治性や権力性を問う”。難しそうだけど重要書間違いなし……。
松柏社
バベルをこえて──多言語習得の達人をめぐる旅
9784775402979
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784775402979
“18世紀後半から現代に至るまで、歴史の流れに翻弄され続ける「言葉を学ぶ」という営みを、超多言語習得者という存在の解明を通して捉えようとする1冊”。これもまた重厚な1冊のもよう……。今週は松柏社がアツいです。
ひつじ書房
BLと中国
9784823412295
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784823412295
“厳しいメディア規制の環境下でも発展してきた中国BLをめぐって、人気作品で講じられる適応策やBL・メディア業界に関わる中国の社会情勢を分析する。中国のBL(耽美/Danmei)を論じた、日本語による初の研究書”。先日SNSで話題になっていたようですね。ふだんは言語学や教育学の本を出している出版社のイメージなので意外な1冊かも。
今週のお知らせコーナー
①定期読書会関連のお知らせ
・3/31(日)14時〜16時 高橋くん読書会
→今回の課題本、もといテーマは「矢野利裕の本」とのことです。『矢野利裕のLOST TAPES』『学校するからだ』などなど……。特に申し込みは不要です。自由参加。ツイキャスでも流します。zoom参加希望者はbooks.lighthouse@gmail.comまで連絡ください。
・3/24(日)14時〜16時 『物語とトラウマ』ゆる読書会
→今回の課題本は多和田葉子の『雪の練習生』です。詳細はこちらから。
②〈新規イベント〉4月13日(土)に「おでんの会×スナック社会科」を開催します。日中はおでん&スナック社会科のブース販売、夕方以降にトークイベントを企画中。詳細確定次第お知らせします。
③〈新規イベント〉5月11日(土)に山内尚さんと清水えす子さんをお招きしてイベントを開催します。詳細とトークイベントの参加申込はこちらから(お茶会は自由参加です)。おふたりの新刊も予約を開始しています。『ノンバイナリースタイルブック』『シミズくんとヤマウチくん われら非実在の恋人たち』の2冊。同時刊行なのでセット販売もしています。ご都合に合わせてぜひ。店頭受取も可能なので、ご希望の場合はウェブストアは通さず直接連絡ください。
④ウェブストアを移転しました。新ストアはこちらです。旧ストアは完全に停止しようと思っていたのですが、無料プランに切り替えても7月くらいまで有料のままなので、Tシャツ売場にしました(新ストアにはTシャツ作成機能がないので)。いまのところオシャレさんもどきみたいなものしかないので、今後はもっとへんてこなものを増やしていきたい所存。
⑤ブルースカイのアカウントを開設していました。なお、Twitterの運用はほぼ終了しました。緊急連絡やDM利用などは続けます。あと、Twitterでしか告知ができない/していないアカウントに関わる告知なども、当面の間は続けます。通常のお知らせ系はほかSNSにて同時並行的におこないますので、ご都合よろしいものでチェックしてください。各種リンクはこちらにまとまっていますので、よーちぇけらー٩( ᐛ )و
⑥2024年5月の文フリ東京を目標に、本屋運営に関するあれこれを書き連ねたZINEを作ろうと考えています。本屋の始め方とか続け方とか、そういう参考になるものは多ければ多いほどいいので、本屋lighthouse的本屋ノウハウZINE的なサムシングをば……。どちらかといえば実用書的な、テクニカルな話をしたいと思います。なので『ユートピアとしての本屋』とはまた違った角度から本屋を考える1冊になるので、あわせて読んだりすると私がよろこびます。ということで、どういうことが聞きたいか/知りたいか教えてください。目次が決まらなくて書き出せないのです。ちんちくりん。この記事へのコメントやbooks.lighthouse@gmail.comなどへ遠慮なくどうぞ。よろしくお願いします。